厳冬期にのみ現れる自然の芸術「氷瀑」。
ドローンでいつものように上空から撮影しても微妙な映像になるため、氷瀑の撮影はこれまでの常識を捨て、視点を変えて撮影する必要があります。
通常は上空から見下ろすように撮影しますが、氷瀑の撮影はむしろ逆で、地上からカメラを上空に向けて撮影することで氷瀑の素晴らしさを写せます。
この記事では、ドローンで氷瀑を撮影するための空撮テクニックと注意事項を解説します。
氷瀑の撮る空撮テクニック
氷瀑は狭い空間や近い距離で撮影するため、ポイントを押さえないと綺麗に撮れず素人っぽい映像になりやすいです。
綺麗に撮るコツや撮り方は以下のとおり。
- 「低速」で一定の速度を保って飛行
- 氷瀑に接近して撮る
- カメラのチルトを最大限上げて撮影
- スローモーション撮影
- ホワイトバランスを「冷たく」
「低速」で一定の速度を保って飛行
氷瀑を撮るのにもっとも大事なのがドローンを低速で飛ばすことです。
広大な自然を撮る風景撮影なら速度が速いほうが動きが出ていいのですが、氷瀑の場合は別。被写体と近い距離で撮ることになるため、近い距離で速度を速くしてしまうと、被写体(氷瀑)がブレてしまい素人丸出しの映像になってしまいます。
40インチ以上の大きな画面で見ると被写体のブレは顕著にわかります!
どのくらいの速度で飛ばせばいい?
氷瀑に接近して撮影する場合には具体的に時速3〜8kmで飛ばします。
これは氷瀑との距離によって変わり、近ければ近いほど遅く、遠ければ遠いほど速くが基本ですので、ブレないよう距離に応じて臨機応変に変えましょう。
低速で飛ばすのに役立つ機能が2つあります。
- Cモードで飛ばす
- クルーズ制御を使用
最大速度がもっとも遅い「Cモード」で飛ばすと簡単に低速飛行ができます。最近のドローンはそれでも最大約20km出ますが、Nモードよりは飛ばしやすい。
機体によっては「クルーズ制御」という機能が搭載されているものがあります。クルーズ制御は、最大速度をあらかじめ設定しておくことで、スティックを最大限に倒しても設定した速度以上は出ない機能です。
Cモードでクルーズ制御を最大8kmほどに設定しておくことで、簡単に一定の低速飛行ができるようになりますよ。
速度は途中で変更しない
これは空撮全般に言える話ですが、飛行中は一度決めた速度を変えてはいけません。
つまり1カット撮り終わるまではずっと同じ速度が基本です。
空撮ではいかに「ドローン感」を出さないかが重要になります。途中の速度変更は「ドローン感」がもろに出てしまうので絶対にやめましょう。1カット撮り終わるまでは速度を変えない。もし納得できないのなら、もう一度最初からやり直せば良いだけです。
一定速度を保つ繊細な操作方法
氷瀑の撮影は、低速で一定の速度を保つ必要があり繊細なスティック操作が必要です。
普段、海や山など空間の広い場所でしか飛ばしていないと、この数ミリ単位で動かし固定するスティック操作はとても難しく、せっかく現地へ行ってもうまく撮れずに終わります。
低速でゆっくり飛ばせない人はあらかじめ練習しておくことが大事!
繊細なスティック操作は以下の記事で解説しています。
氷瀑に接近して撮る
氷瀑を撮るにも、さまざまな角度・距離・高さで撮ることが大事です。編集して映像制作するうえで同じ角度・距離・高さの映像ばかりだと、魅力的な映像にはなりませんよね。
しかし氷瀑の撮影で特に大事なことは氷瀑に接近した絵を撮ることです。
具体的に言えば、ツララ(氷柱)をしっかり写すこと。
氷瀑全体を撮るのは必要ですが、それを成しているツララ(氷柱)ひとつひとつを写すことで、迫力がある自然の芸術「氷瀑」の魅力を最大限引き出せます。
接近して撮るには繊細な操作が必要不可欠です!
氷瀑を前に上昇・下降
氷瀑に接近して撮る際、基本動作として上昇・下降があります。
ただそれだと平凡な映像になるので、応用として、そこに斜め動作や回転動作を加えることで、より一層見栄えする映像を撮れます。
- 【基本】上昇or下降
- 【応用】上昇(下降)+斜め
- 【応用】上昇(下降)+回転
まず最初は、ただゆっくりまっすぐ上昇・下降すればOK。
それができたら、今度は上昇する際に「斜めに上昇」したり「斜めに下降」することで一段階レベルアップした映像になります。
可能なら上昇しながら機体を回転させたりしても綺麗です。
こんな感じ↓
カメラのチルトを最大限上げて撮影
氷瀑の撮影で重要なことは、カメラのチルトを上げることです。
通常のドローン撮影では、カメラのチルトは真正面か下に向けることがほとんどですが、氷瀑の撮影では正面よりも上方に向けることが肝心です。
理由は氷瀑は下から撮る被写体だからです。それは撮影だけでなく肉眼で見る場合も同じ。上空からだとまわりの雪と同化し、どこが氷瀑なのかすらわかりません。
- 氷瀑は下から見ると綺麗な被写体
- ツララ(氷柱)は滝の水や滴り落ちる水が凍り、それらが積み重なっています。下に下に伸びて垂れ下がっているツララ(氷柱)の凄さや迫力は、下から見てはじめて綺麗に見えるのです。
チルトを上げることで、単純に画角におさまるツララ(氷柱)の数が増え映像に迫力が出ますよ!
おすすめな撮影方法
氷瀑を撮る際のおすすめな撮影方法は、紹介した3つの要素が入ったものです。
- 低速で一定の速度を保つ
- 氷瀑に接近する
- カメラのチルトを上げる
具体的にはこんな感じの撮影方法↓
速度が速いと被写体がブレて台無しになりますし、接近しすぎてもピントが合わなくてボケてしまうことがあります。しっかりチルトを上げることで画角いっぱいに垂れ下がっているツララ(氷柱)が写っていい感じの映像になるのです。
この映像はただ真上に上昇しているのではなく、少し斜めに上昇しています。真上に上昇しても綺麗な映像は撮れますが、少し斜めに飛ばすとプロっぽいカットが撮れますよ。
スローモーション撮影
氷瀑にもよりますが、滝の水が完全に凍っていない氷瀑が多いです。
その際に有効なのがスローモーション撮影で、水の流れをゆっくりにします。
具体的にはフレームレートを60fpsや120fpsに設定して撮影します。できれば120fpsで撮影するのがおすすめで、編集で緩急のある表現が可能に。
スローモーション撮影した映像を逆再生することで、水が昇っていくおもしろい表現もできますよ!
ただしフレームレート120fpsで撮影できるドローンは限られており、現状ですとDJI Mavic 3のみとなっています。
ホワイトバランスを「冷たく」
氷瀑の映像は「ホワイトバランス」が重要になります。
これは撮影時に設定できますし、Log撮影しておけば編集の段階で変えれます。
氷瀑は極寒の地にあるので「寒さ」や「冷たさ」を感じさせる被写体です。
いつも風景撮影している設定で撮影すると「白っぽい氷瀑」になりますが、ホワイトバランスを青くすることで「寒さ」や「冷たさ」を引き出せます。
氷瀑の映像は青っぽくして「冷たさ」を出すといいですね!
氷瀑を撮る際の注意点
氷瀑を撮影する際に注意すべき点です。
- GPSの電波状況を確認
- 障害物の有無を確認しておく
- 機体を目視しながら操作
- 水飛沫が掛からないよう注意
- 身体が冷えないよう寒さ対策
氷瀑はまわりの空間が狭く、障害物も多いので墜落の危険が高まります。
GPSの電波状況を確認
氷瀑の周辺は地形的にGPSの電波が届きにくいです。
GPSの電波が届きにくいと以下2つの懸念があります。
- 高度制限で上昇できない
- 突然ATTIモードに切り替わる
ドローンは必要な電波をキャッチするまで一定高度以上は上昇できません。
上昇できないときの解決策としては、基本的に氷瀑から離れた位置で上昇できるギリギリでホバリングすることで、数十秒か数分で上昇可能になります。ATTIモードを選択できる機体であれば、ATTIモードなら即上昇できます。
最近の機体はGPSの電波を複数キャッチできるのに加え、性能が上がりましたので即上昇できる機体が多いです。
突然のATTIモードに注意
撮影中、氷瀑に接近しすぎるとGPSの補足状況が悪くなり突然ATTIモードに切り替わることも考えられます。
急にATTIモードになると、滝が作り出す風でドローンが流されてしまい、周囲に衝突して墜落してしまう可能性が高いです。流されたら当て舵を入れないといけません。
このような環境で安全に飛ばすには、あらかじめATTIモードの操作をマスターしておきましょう!
障害物の有無を確認
氷瀑の撮影では、障害物が多く空間が狭いため危険を伴います。
特に気をつけるべきは木の枝で、枝の存在に気づかず接触し墜落してしまうケースが多いです。とくに冬は、枝に葉っぱが付いていないのでわかりづらい。
飛行前に必ず「どこに枝があるのか」を目視しておくことが大事。少し離れると目で見えない小さな枝もあるため、なるべく機体を目の前で飛ばすことを推奨します。
細い枝には効果がありませんが、プロペラガードも有効です。大きな枝だと当たり方によってはプロペラガードに当たり、運良くプロペラとの接触を防いでくれることがあります。
気休め程度ですがプロペラガードを装着して飛ばしましょう!
機体を目視しながら飛ばす
しっかり構図を決めて撮影しようとすると、どうしても手元の画面を凝視しがち。
空間の狭い場所では障害物ギリギリを攻めることもあり、接触しないかどうか機体を目視する回数を増やしましょう。
7(機体の目視):3(画面)くらいの割合で飛ばすと接触は減らせます。
操作し始めて撮りたい構図でスティックを固定できたらあとは機体を目視。構図がズレてきていないかチラチラ画面を確認します。
機体を目視していれば、狭い場所でも衝突や墜落の確率を下げれます!
水飛沫が掛からないよう注意
完全凍結していない氷瀑では水飛沫が飛んできます。特に気をつけるべきは、水が流れ落ちる滝壺付近で低空飛行するとき。
氷点下で水飛沫が機体やレンズに付着すると凍ってしまい厄介です。機体の場合、付着する箇所によっては飛行に悪影響を及ぼすことがあります。
レンズに付着するとそのまま凍ってしまうため、映像として使い物にならず、一度帰還させる必要があります。帰還させても凍っていて拭けないことも。無理に拭こうとすると傷がついてしまうため要注意です。
ホッカイロや指で温めて溶かす必要がありますが、氷点下では溶けづらく面倒なため、そもそも水飛沫がつかないようにしましょう!
身体が冷えないよう寒さ対策
氷瀑のある場所は氷点下の極寒です。
指穴が空いた手袋はもちろんですが、ドローン操作で大事なことは身体の防寒です。
経験上、撮影中に寒さが操作に悪影響を及ぼすのは身体の冷えです。
身体が冷えて震えてしまうと、スティックを操作する指も震えてしまい、まともに操作ができなくなります。指のほうは意外と我慢でき、撮影中は集中することからさほど冷たさを感じません。
寒さ対策は「指」に注目しがちですが、指よりも「身体」の防寒をしっかり考えましょう!
まとめ
氷瀑をドローン空撮テクニックと注意点を解説しました。
以下3つを意識して撮影することで、氷瀑の魅力を最大限引き出せます。
- 低速で一定の速度を保つ
- 氷瀑に接近して撮る
- 低空からチルトをあげて撮る
極寒にしか現れない自然の芸術ですので、この記事で紹介した内容を参考に、ぜひお近くの氷瀑を撮影してみてください。